2016-10-04

『パノラマ島綺譚』乱歩★3


青空文庫より。ネタバレあり。
『孤島の鬼』が傑作だっただけに、大きな期待をしてしまったけども、残念ながらそうはいかなかった。



圧倒的なパノラマ島の描写は、退屈と感じる人も多そうではあるけれども、人見廣介が今まで何年間も思い描いてきた夢の中を散歩できるのかと考えれば、ちょっと面白い。
他人の夢の中にはそうそう入れないだろうし。

しつこく「これを見ろ!これを見ろ!」と言わんばかりの細かな描写と文字の量は、絵の具のようにこの妄想を何度も何度も塗り重ね、大それた罪まで犯し、ついに実現させた、彼の執念を見せつけられているようだった。
私が途中で「もうわかったから!わかったから!(はよ終われ)」と思ったにせよ、彼の執念がすごかったことは否めない。


ところが終盤。
ぽっと出の人物(一応序盤にいるけども)による探偵パートが始まってしまい、彼が得意げに犯罪の証拠を列挙。そして花火のラスト。私は興ざめだった。

もっと何か、隠された血縁とか、秘密とか、何か驚くべき事実のようなものが……、あると思っていたよ。
それがあれば、物語がひっくり返って、人見の転落もまだ腑に落ちたのだろうけど……、没原稿や柱といった証拠は、読者にとっては人見の罪の追認でしかないし……、少なくとも私には、そういう衝撃をもたらすものではなかった。
ただただ、探偵という「理性」の登場によって、パノラマ島が、人見が、「幻想」が、終わった。
そんな印象だけが残った。


「赤い部屋」や「人間椅子」を読んだときも思ったのだけど、乱歩は読者を幻想・怪奇に酔わせておいて、そのあと非情にも引っぺがす、ということをやる場合があって、今回もそれと同じような欲求不満を覚える。

まあでも、タイプはちょっと違うかもしれないなー。
上の2編は「もっと幻想世界に浸らせてよォ~~意地悪ッ!」という感じ。

この話は、「せっかく面白そうな世界に浸ってんだから、もっと面白いもん持ってこない限りは起こさないでくれッ!」という感じだと思う。
面白いものを持ってこなかったから、私はこの探偵に反発心がわいたのか。


ポーと同様、乱歩は幻想・怪奇と理性(探偵推理)という、相反する性質のものを描いていて、そこが魅力だとも思うのだが、この作品では性質そのまま、一方が他方を打ち消してしまったようだ。


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この作品に影響を与えたという3作品も読んでみました。


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