2015-07-15

『孤島の鬼』江戸川乱歩 ★5

孤島の鬼 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)


もう何年も前からお勧めされ積読していたところに別の人からも勧められ、さすがに本を開いた。
読んでみると、評判どおり「超面白い!」。

恋人の死、不可能な殺人事件、異形の者、暗号に隠された秘密、危険を伴う冒険、狂気……
めくるめく展開と怪しげな秘密の開示に、旅行中だったが止めることができず、一気に読んでしまった。

※ネタバレは黒で囲ってあります:      



はじまり

話は、主人公蓑浦みのうらが「なぜ自分はまだ若いのに白髪頭なのか、なぜ妻の体には大きな傷跡が残っているのか、その理由となった奇怪な出来事について語りたい」と述べるところから始まる。

蓑浦は「当時の恋人と、その犯人探しを手伝ってくれた友人が殺された」といきなり衝撃的な体験を語るのだが、それはこの事件の序章にしか過ぎないのだった。

私は他の乱歩本を読んでいないので比較できないのだが、くどくどと遠回しに細やかな注を書き連ねるところが、筆に不慣れだという主人公の性質を表しているようで面白かった。



恋人の死

恋人、初代はつよの亡骸を前にした時の様子を描写し、湿っぽくなったところで彼はこう言う。

こんな泣き言を並べるのがこの記録の目的ではなかったのだ。読者よ、どうか私の愚痴を許してください。

この部分にものすごく感情移入してしまった。
私も自分を抑える癖があるせいかもしれない(なぜブログで饒舌かといえば、現実にはこういう話を話せる人がいないからだ)。

最愛の恋人が、殺されてもう戻ってこない。
そんな時くらい、泣き言言ったっていいじゃないかと、私は泣いた。



奇形

一番心に残ったのは、少女の日記だった。

「自分の体の形を正常だと思っているので、他を異常だと考えていた」
「自分の体が異常だと認識するにつれ、苦しみが増していった」

といった事が書かれている。
知識がつくにつれて苦しむ、というのが切ない。

しかしあの館の中にあっては、異形が正常なんだよね…。
それに、あの人達が目指したものも。


ブログのタイトルもそうだが、私は「怪物」「異形」に関心がある。
昔ランズデールの『アイスマン』を読んでからフリークショーや見世物小屋にも興味をもつようになったが、いまは民俗学とか日本史方面での関心が主で、魅力的な要素ではあるものの、「好奇の目」という意味では特に感情を抱かなかった。

というよりも私はこの手の話題になると「好奇の目」を向けたら失礼ではないかとずっと暗に感じ、罪悪感を抱いてしまうので、そういう関心の持ち方を避けたいというのが本当のところかもしれない。
だがなぜこの本を食い入るように読んだか、例えば事件の性質が違ったとして、それでも同じように夢中になっただろうか。
「好奇の目」と同じか微妙なところだけれど、無意識に惹かれるものがあるのは確かだ。
私はそういう「惹かれてしまう」気持ちをどうすればいいのかにも悩んでしまう。

他の乱歩本を読んで、意識の持ち方を考えてみようかなあ……。



BL

蓑浦とその先輩、諸戸の関係である。
諸戸は同性愛者で、ひたむきに主人公を思い続けている。

どうも描写からすると蓑浦は線が細く「綺麗」な人物で、諸戸はたくましく勇敢、かっこいい人物(おまけに頭もよく金持ち)というから、「こんなんほんとにBLじゃん!ずるいぞ!」って感じだ。

さらに特筆すべきは蓑浦君の小悪魔っぷりである。
彼は諸戸の気持ちには気づいているが、拒まず接している。
のは別にいいのだが、

散歩のときに手を引きあったり、肩を組み合うようなこともあった。それも私は意識してやっていた。時とすると、彼の指先が烈しい情熱をもって私の指をしめつけたりするのだけど、私は無心を粧よそおって、しかし、やや胸をときめかしながら、彼のなすがままに任せた。といって、決して私は彼の手を握り返すことはしなかったのである。

おい蓑浦君、君はなんて酷なことを……。

しかし、ここにあるような関係はあくまで友情の延長だからであって、諸戸がそこから一歩踏みだそうものなら関係は崩れてしまう。それがわかっているから、諸戸は葛藤しつづける。
といって蓑浦は女性が好きなのだし……これは報われぬ恋だ。仕方がないことなのだった。

でも、幕引きの文のせいで、私は諸戸に同情してしまうのだ。

「六道の辻」で水責めにあった時、蓑浦は諸戸に抱きついてたが、あれは内心嬉しかったろうなあ。そのあと精神が弱っていたせいもあったかもしれないが、自分とふたりだけの世界だ、と喜んでいたし。
自分の暗い生い立ち、女性恐怖症になった境遇、途中「主人公諸戸じゃん!」と思うほどの苦難を乗り越えて最後の場面に立ってるだけに、知らぬうちに肩入れしてしまっていた。

はあ、切ないなあ……。

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