2014-12-24

映画『ゴーン・ガール』★5



「スッキリ!」の映画紹介で「カップルで観ない方がいいかも」と言ってて気になってた映画。

5年目の結婚記念日に、ニックは妻のエイミーが失踪したと知る。妻が有名な絵本の主人公として有名だったことからマスコミも注目。次々と挙がる夫婦間不和の証拠に、ニックが妻を殺したのではないか?との過熱報道が始まる。真実はどこにあるのか?エイミーはどこへ行ったのか?

監督は『セブン』『ファイト・クラブ』『ソーシャル・ネットワーク』のデヴィッド・フィンチャー。
インタビューによれば自分好みの、皮肉の効いた映画を作りたかったそうだ。
「結婚に理想をもつ人たちに冷水を浴びせかける映画だ」と笑っていた。
主演ベン・アフレックは監督の技巧を学ぼうと、自分の映画製作を一旦置いてこちらに俳優として参加したんだとか。

さて、どんな映画やら?

・・・

直後の感想はですね、「うへ~~……」。
別に理想もってたわけじゃないけど、冷水かけられるな、これは。
状況もコロッコロ変わるんで、飽きずに観られました。

さあ、ネタバレしないように書くとこのくらいしか情報が出せない!
こっから先は超!ネタバレありなのでご注意を。

ちょっとでも観る可能性がある人は、ほんとに情報入れないで観るほうが楽しめるよ。

















幸せな時間


■冒頭、日記の上を走るペンとエイミーの語りによって、2人の幸せな過去が掘り起こされる。
洗練された……「されすぎた」キザな会話でニックと惹かれ合った。
あとで考えるとこれが「演技」のはじまりか。

この「日記」も後々重要な証拠として登場する。
2人の背景を紹介しつつ、証拠品の内容も紹介しつつ、兼ねてるのがうまいなあ。
おまけに観客は内容を無条件に信じちゃうという。
(最初のうちは。「赤ちゃんを求めるエイミー、しつこい彼女を柱にぶつけるニック」の回想、最後まで見ると、あのシーンって嘘だよね?)


■印象的なエピソードとしては、「プロポーズ」。
エイミーの両親は絵本作家で、彼女を主人公にした本は非常に有名。
だがその「理想化されたエイミー」といちいち比較され、本人はウンザリ、両親と軋轢があった。

結婚も「完璧なエイミー」に先を越されたと記者に揶揄された時、ニックが記者を装って擁護につき、そのまま手帳に挟んだ指輪を見せプロポーズ。

夢のようなプロポーズである。
この時彼女は思ったに違いない。
私を救ってくれる、私を「完璧」にしてくれる王子様が現れたと。



追い詰められるニック


そんな幸せな2人だったのに、今となっては酒場で妻の愚痴を吐くニック。
一体どうしたことか?

帰宅すると、コーヒーテーブルがひっくり返り、かすかな血痕……
様子がおかしいとニックは警官を呼ぶ。

以降捜査が始まり、次々と出てくる証拠や証言によって、これはどうも夫が怪しい、妻殺しか、と世論も捜査も傾いていくのだった。


しっかし、不運で情けなさ満載のニック。

  • 妻の捜索協力を求める記者会見にて。
    たぶん慣れないせいだろう、ニックは言葉少なに切り上げるが、次の義母のコメントはものっすごい気持ちこもってて、相対的に彼は「冷たい夫」と見られてしまう。
    (逆に言えば、義母が慣れすぎ)
  • 妻の写真の横でカメラマンに「笑って」と言われそうしたら、「妻が失踪してるのに信じられない!」とマスコミに叩かれる。
  • 派手な女に馴れ馴れしく言い寄られ、まんまと2ショットを撮られ、それもまたマスコミに叩かれる。
  • 刑事に「茶色の家」の事を隠すが、そのあとバッタリ現場で出会ってしまう。

人に愛想よくしてるのは亡くなった母親に言われたことでもあり、同情するんだが…
そこで発覚するのがニックの浮気。

おまけに問題山積の中、本心から心配してくれてる妹宅でヤッちゃうっていうね!
これまでニック視点だから感情移入してたけど、うわ、彼にも秘密あるのか、と。
見方が変わってくる。

エイミーにもニックにも秘密があり、もたらされる情報も嘘と真実両方含まれ、どの部分がライトアップされるかで情勢が変わっていくような、疑心暗鬼感。
ただ確かなのは、ニックは決定的に不利だということ。



エイミーという人物


■ロザムンド・パイク(エイミー役)の演技も良かった。
印象に残ったシーンを挙げると、そのまま映画の衝撃シーンと重なる。

  • 最初のカット&ラストカット。
    ニック視点で彼女がこちらを向いて微笑む。全て知った後に見るとすんごい不気味。
  • 中盤のシーン。
    失踪後、田舎娘に変装し隠れ住むエイミー。
    が、隣人に金を持ってるとばれ、強奪される。
    悔しさから枕に頭を押し付け、ウオオオオオオと物凄い雄叫び。
  • 金欠になって頼ったストーカー男の邸宅にて。
    軟禁状態から抜けだそうと、エイミーの策略始動。
    足に包帯を巻き、下腹部に赤ワインを染み込ませ、監視カメラに映り、叫び声をあげ痛がる演技。これを他人が見れば、どう映るかは明らか。非常に、非常におそろしいシーン。
  • その後ストーカー男をベッドに誘い、体を重ねたところで喉をカッターで切り裂く。
    ぐるぐる、ぐるぐると絡み合い、血をかぶり、全身赤く染まっていく……
    そして、そのままの姿でニックの元へと戻るのだ!!!!!
    あ、ありえね~~~~~なんて女だ!!!
    車から降り、彼の元に走り寄り、抱きしめ合い、マスコミがわらわらと…悲劇のヒロイン!

■実際頭はすごく切れる。
病院で刑事たちに囲まれながら、女刑事を封殺するシーンは舌を巻いた。

だけど近所の女性を「バカな女」と見下したり、驕りがある。
周りをなめてるから、それがお金を奪われるシーンに繋がる。
(隣人については『原初の光』に登場する「賢い田舎者」を思い出す)

そして、ニックが失業して、失意から家でゲームばかりやってた時の言葉も。
「職を探すのよ」と言い放つエイミー。
正論なんだけど、彼女はその高い目線から彼の目線へは降りてこない。

「絵本のエイミー」に負けないよう、これまで高いレベルをずっと保ってきたとか、事情はあるのかもしれない。だけどその高水準を求めるやり方に、次第にニックは疲れていったようだ。
(冒頭、妻の「宝探し」にうんざりするニックは、「自分の愚鈍さを見せつけられるようで」とか言う)


■血みどろでニックの元へ戻った時には、ほんと驚いた。
人を殺して、被害者面で、一度は死刑にしようとした夫の元へ戻るわけだよ!
もうこれは「向こう側」へ行っちゃった女だ。
タイトルの「Gone Girl」って失踪した意味もあるだろうけど、「一線を超えてあっちへ行ってしまった」って意味もあるんだろうね。きっと。

最後にはみんな「絵本のエイミー」じゃなく自分自身を見てくれるようになって、自尊心が満たされた……のかもしれない。何かとてつもなく大きなものを失ったような気がするが。


■ただ、彼女には共感できるところもある。
「結婚生活で、自分のなりたくなかった自分になっている事に気づく」
これは嫌だろうなー。

醜い自分になるのが嫌ってのは、理想的な自分があるってことで。
理想が高いからこそそうなる部分もあるんかな。
うへー自分もそうなんかなー、やだなあ。

エイミーの素って「計画通りニックは死刑になりそーだ!いえいっ☆」って両足折り曲げてジャンプしたり、パンツ見えようがお構いなしではしたなくあぐらかいてたり、そんなところにあると思うんだよね。まあ人の目気にしなくていいとなれば、誰でも楽にするだろうし。

でもエイミーはその日常を選ばないんだよなー。
ああ、完璧なエイミー。



それが結婚よ


パンチ効いてたな~~このセリフ。
「結婚は人生の墓場」なんて言葉があるけど、墓に入ったら二度と出られないって意味で、この映画に関しては当たってる。


ラストシーン、自分なりに考えてみたんだが。
TVショーの司会者からインタビューを受けるニックに、惚れ直した…だけじゃ、殺しの動機としてちょっと足りないと思うんだよね。

インタビューを受けるニックは、出会った頃の彼だった。
私を「完璧な私」でいさせてくれる「彼」。

だから家に戻った後ニックに、
「こんなの無理だ!君は人を殺したんだぞ!?こんな結婚生活が続けられるわけがない!」なんて言われても、「彼」を逃すわけにはいかないのだ。
ってかニックは「彼」を演じてさえくれれば、それでいいんだから。
私も「私」を演じるし、あなたもそうしなきゃいけないのよ。
だって、私を選んだじゃない。「契約」したじゃない。

……そんな風に解釈しました。
そうだ、結婚って契約かあ……と思わされたなあ。


夫婦の殺し合いじゃなかった。
別れるでもなくぐっちゃぐっちゃな泥沼でもなく。
これからずーっと続いていく、地獄。



クリスマスイブの殺人事件

原作の元になっている殺人事件だそうだ。夫が妻を殺したとされ、現在服役中。
この写真の夫なんて、ほんとハンサムだな…



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原作


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