写本の怪しい魅力のせいなのか、オカルト話と親和性が高いらしく、そういった話があちこちに散りばめられている。また、著者は写本だけでなくそれをめぐる人間たちの人生にも惹かれており、それを反映した内容。
理解を深めるため暗号の歴史を見ていく章もあり、写本についてよく知らなかった自分でもどういう部分が不可解なのか、何が人を虜にするのかを理解しながら、ミステリーを楽しむことができた。
以下読書メモ。
1 醜いアヒルの子
他のどんな写本にも似つかないヴォイニッチ写本(以下VMS)。
発見者ヴォイニッチについて。
発見者ヴォイニッチについて。
2 ロジャー・ベーコンの暗号
ベーコンを著者とするニューボールドの発表。マンリーの批判。p61
話がでかくなりすぎた。
話がでかくなりすぎた。
3 秘術師、透視家、エジプト学者
4 暗号の迷宮 その1
- 暗号のふたつの種類
-
サイファ:文字をほかの文字・数字・シンボルに変換
転置法:順番を入れ替える。アナグラム。
換字法:文字を置き換える。カエサル式シフト法 p145 - コード:単語や句全体をほかの単語・文字・数字・シンボルに変換
-
サイファ:文字をほかの文字・数字・シンボルに変換
- ベーコンの7つの技法 p147
- アラブから頻度解析を導入 p148
- 頻度解析に対抗:「同音異綴法」 p156 異綴 いてつ
出てくる頻度の高い文字(例えば英語ならe)に、代用字を多く設け、文字の出現率を平均化する。
しかし代用字が固定されているため、文字同士の関係性は残る。
このパターンをたどれば解析できてしまう。(例:「h」は「e」の前にくるが、直後にはほぼこない) - アルジェンティ兄弟
- アルベルティ 「複式換字法」 p159
サイファ盤を使う。数語ごとに盤を回し、代用字を変化させていく。 >Alberti cipher disk - ヨハンネス・トリテミウス p162
こんな表を使う。
+ a b c d e f g h i k l m n o p q r s t u x y z w
++ b c d e f g h i k l m n o p q r s t u x y z w a
+++ c d e f g h i k l m n o p q r s t u x y z w a b
d e f g h i k l m n o p q r s t u x y z w a b c
e f g h i k l m n o p q r s t u x y z w a b c d
f g h i k l m n o p q r s t u x y z w a b c d e
g h i k l m n o p q r s t u x y z w a b c d e f
h i k l m n o p q r s t u x y z w a b c d e f g
i k l m n o p q r s t u x y z w a b c d e f g h
k l m n o p q r s t u x y z w a b c d e f g h i
l m n o p q r s t u x y z w a b c d e f g h i k
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n o p q r s t u x y z w a b c d e f g h i k l m
o p q r s t u x y z w a b c d e f g h i k l m n
# p q r s t u x y z w a b c d e f g h i k l m n o
q r s t u x y z w a b c d e f g h i k l m n o p
r s t u x y z w a b c d e f g h i k l m n o p q
s t u x y z w a b c d e f g h i k l m n o p q r
t u x y z w a b c d e f g h i k l m n o p q r s
u x y z w a b c d e f g h i k l m n o p q r s t
x y z w a b c d e f g h i k l m n o p q r s t u
y z w a b c d e f g h i k l m n o p q r s t u x
z w a b c d e f g h i k l m n o p q r s t u x y
w a b c d e f g h i k l m n o p q r s t u x y z
たとえば「BANANA」を暗号化する。
最初の文字は「B」。1行目(+)の「b」を見る。
ひとつ目の文字だから、ひとつ下の行(++)を見る。交点の「c」が代用字。
次は「A」。1行目(+)の「a」を見る。
ふたつ目の文字だから、ふたつ下の行(+++)を見る。交点の「c」が代用字。
…とやっていくと、「BANANA」→「ccqesg」となる。
Aが3回使われているが、どれも違う字に変換される。 - ベラソ p165
トリテミウスの方法は行を順に下にずらすだけだったが、もうちょい変化をつける。
送り手・受け手であるキーワードを共有(例:PLAY)。
「banana tree」を暗号化したい。
最初の文字は「b」。1行目(+)の「b」を見る。
対応しているキーワードは「P」だから、Pの行(#)を見る。交点の「q」が代用字。
…とやっていくと、「banana tree」→「qlnycltotp」
- ポルタ p167
- ヴィジュネール p168
アルベルティ、トリテミウス、ベラソ、ポルタの考えが全て入っている。
キーワードを原文と同じ長さにし、弱点を克服。
送り手・受け手は起爆キーを共有(例:P)。
「banana tree」を暗号化したい。
最初の文字は「b」。1行目(+)の「b」を見る。
起爆キー「P」の行(#)を見る。交点の「q」が代用字。
次の文字は「a」。1行目(+)の「a」を見る。
キーワードは前の文字。つまり「b」の行(++)を見る。交点「c」が代用字。
次の文字は「n」。キーワードは前の文字「a」…
…とやっていくと、「banana tree」→「qcnnnntlxi」
※本の中では並びがランダムなアルファベット表を使っている。
この暗号システムは20世紀まで解かれなかった。 - VMSがもし暗号なら、ベーコンの7技法~ヴィジュネールの間に位置する。
- ジェームズ・M・フィーリー p177 頻度解析を使用。
- VMSに訂正のあとはない。
先に絵を描き、それに合わせるよう字を書いた。
もし絵の植物がヒマワリ、トウガラシだった場合コロンブスの2度目の航海1493年以降。p188
→ 分析で1404~38年と特定。ヒマワリやトウガラシを書いたわけではない?
5 暗号の迷宮 その2
- ウィリアム・フリードマン p191
WW2中のアメリカ・暗号解読官長。日本のパープル暗号を解いた人物。 - 妻、エリザベス
- ヴォイニッチに関する自説をガリレオのアナグラムのように発表。p196
「ア・プリオリなタイプの人工/普遍言語説」 - 人工言語は大きく分けてふたつ。
ア・ポステオリ:現存する言語とその構造に基づく。エスペラント語など。
ア・プリオリ:全く異なる原理に基づいて作られる。
ジョージ・ダルガーノ - Wikipedia
真性の文字と哲学的言語にむけての試論 - Wikipedia(ジョン・ウィルキンズ)
ジャン・フランソワ・シュドル - Wikipedia - ジョン・H・ティルトマン准将 p200
イギリスの暗号学者。同じく人工言語説。 - ロバート・ブラムボー p202
「数秘術式箱型サイファ説」(アルファベットがアラビア数字を表す)。ゲマトリアみたい。 - ダミー文の中に真のメッセージを埋め込み、有孔板(グリル)で見る方法。 p209
- カタリ派。 p211
二元論。
善:霊的世界、悪:物質世界。よって現実世界は悪。地獄はない、この世こそが地獄。
死ぬと再びこの物質世界に生まれ変わる。悪の連鎖を断ち切るには、肉を超越することを個人的に選択する必要がある(秘蹟を受け厳格な生活を送り、死ぬことが望ましい)。名目上は教皇特使ペトロ殺害に対する返報だが…
「アルビジョワ十字軍」は1209-29にかけてランドックを蹂躙(宗教に寛容な地域だった)。
中でも悪名高いのはベジエの略奪と住民の殲滅。
要は北ヨーロッパ貴族による土地の略奪。
生き残ったカタリ派が異端審問で握り潰され…1244カタリ派虐殺。
レオ・レヴィトフ博士「カタリ派のエンドゥラ(死を早めるための断食)典礼書説」 p213
異端、秘密結社、陰謀、謎の文書…人は信じたいものを信じる。
よりドラマチックで、スリリングなドラマを。
その結果、有名な謎同士が互いに結びつく引力は、他の平凡な結果をもたらすものよりも強いのかもしれない。 - プレスコット・カリア大尉 「筆跡が複数ある」
6 天界の快楽の園
7 聖別された意識
- シェイカーの幻視による絵画「聖なる紙」との類似 p273
- 一種のアウトサイダー・アートである可能性 p277
ダーガー、アキリズ・リッツォーリ - 聖ヒルデガルトの偏頭痛性幻覚 『スキウィアス』との類似性 p282
- 異言:未知の言語を話す
ゼノラリア:自分が習得してない他の言語を話す・書く
ヘレネ・シュミットの例 p298
たしかに語学力と記憶力すごいよなー。本人も信じてるからインチキってわけじゃないんだね。 - 虚偽記憶症候群 → サタニズム・パニック
8 偽作説今昔
- 事例:
ヒトラーの日記、マーク・ホフマン、
古代ペルシャ王女のミイラ >Mummy Not So Dearest - ブラムボー「ディー、ケリー共謀説」
皇帝ルドルフを騙し、金600ダカットをせしめた? p308 - マーヴィン「K:D:P仮説」 p310
- バーロウ「ヴォイニッチ主犯説」 p316
- 『ヴィンランドの地図』→ ピンチョン p329
9 正体見たりシュレーディンガー
- 古書界のモナ・リザ、宿命の女ファム・ファタル p350
写本に惹かれるのは圧倒的に男性が多いそう。 - 著者の予想。
偽書または精神病・妄想の産物。中世後期~ルネサンス。製作者は無名/匿名。 p357
関連
- Voynich Manuscript Cipher Manuscript イェール大学。全ページ高解像度で閲覧可。
- ヴォイニッチ手稿 - Wikipedia
- 解読不能の奇書「ヴォイニッチ手稿」の年代が特定される - GIGAZIN
- いまだ解読されていない歴史的な10種の暗号 - GIGAZINE
- 古典式暗号の解説
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