2016-02-13

アリライオンについて調べてみた

蟻とライオンが合わさった幻想獣について。
アリライオン、Antlion アントライオン、Myrmecoleon ミュルメコレオン。

面白そうだったのでちょっと調べてたんですが、
色々芋づる式に出てきたので、ひと通りわかったことをここにメモしときます。

文中によく出てくるDruceのテキストはこちらを参照しました:
GEORGE C. DRUCE『An account of the Μυρμηκολέων or Ant-lion』(PDF)



1. 寓話に出てくる「アリライオン」

エリファズは言った。「獲物に飢え、アリライオンは滅ぶ」
博物学者はそれについてこう話す。

その父親は肉を食べ、母親は草を食べる。
彼らから生まれたアリライオンは、2つの性質を合わせもつ。
前の部分はライオンで、後ろの部分はアリ。
だからそれは母の性質によって肉を食べられず、父の性質によって草を食べられない。
よって、飢えのために滅ぶ。

したがって2心ある全ての人は、いつも不安定である。
この話が伝播していた当時は、アリは草を食べると思われていたらしい。

また、
ライオンの性質により肉を食べるが、アリの体のせいで消化ができず死んでしまう
という話のパターンもあるらしい。
キリスト教の訓話として語られたことが多いようだ。

そもそもなぜ「ライオン+アリ」という、ヘンテコな生物が出てくるのか?
以下に続く。



2. 黄金を守る獣アリ伝承


こちらは「インドのアリ」、または「エチオピアのアリ」として有名なもの。
最古の記録はヘロドトスの歴史書。
読んでみるとおそろしいアリだ。前5世紀。

  • インド北部の砂漠に、犬より小さいが狐より大きいアリがいる。
  • アリは地下に穴を掘り、金の混じった砂で山を築く。
  • 現地の民はこれを取るため、ラクダを3頭用意して砂漠へ向かう。
  • アリが地下に隠れる1番暑い時間に到着し、袋に砂を詰めたらすぐ去る。
    失敗すると殺される。

Hortus sanitatis
ロマンあふれる黄金伝説。ただし捕まれば死が待っている。
Druceのテキストには、同じような詳細を伝えるメガステネス(インド誌)の話もある。

プリニウスには
「その大きさが奇跡的とみなされ、Erythraeのヘラクレス神殿にかけられていたインドアリの角」
という記述があり、幻想事典で見かけるアリライオンの中世の絵(左図)は、こういう話が元になっているんだろうか、と想像が膨らむ。

……にしても、立派に生えてるなあ。背中から。



「インドアリ」「エチオピアアリ」 = 「アリライオン」?

  • アガタルキデス
    「大抵のアリライオンは他のライオンと変わらない外見」
  • ネアルコス
    「ヒョウの大きさほどの、金を掘るアリの皮を見た」
  • ストラボン
    「国にアリと呼ばれるゾウやライオンがたくさんいる。皮は金色で、アラビアのライオンより裸に近い」
  • 博物学者ソリヌスは、このアリをライオンの足で、大型犬に似ていると説明。
  • ディオ
    「アリが積み上げる山は、世界一純粋で輝く金でできている」

前2世紀、アラビアのライオンを説明する周辺で「mirmecoleones アリライオン」という言葉が使われている。金を掘る獣アリ、ライオンのようなアリ、アリライオン……、イメージと情報が錯綜しているのだろうか。

前4~後4世紀、ヒンドゥーの叙事詩「マハーバーラタ Mahâbhârata」にも金を掘るアリの言及があるという。 

Druceはこう述べる:
アリのように穴を掘る、ライオンに似た数種の四足動物が「アリライオン」の名を得ている可能性がある。それらがアリに似ていたと信じることは困難である。


獣の正体はなにか?

マーモットではないか?という説。
最もアクセスしにくい地域のひとつ、ヒマラヤ、インダス川上流で発見。
その地域に住むミナロ Minaro の人々は、マーモットの掘る砂から砂金を収集する。
加えてマーモットは「金を掘るアリ」のような特徴、ふさふさした毛皮、犬狐のような尻尾、鋭い歯と爪をもつ。巣穴を勝手にいじれば、獰猛になることも。


なぜアリと呼ばれたか?

古ペルシャ語でマーモットを指す言葉が「山のアリ」と同義だからではないか?という話。
同上



3. 旧約聖書の誤訳?


現時点のWikipediaMedieval Bestiaryには、こんな風に書かれている:
アリライオンの寓話は、旧約聖書をギリシア語に翻訳した「LXX (七十人訳聖書)」の誤訳からくるかもしれない(前3-前1世紀)


ヨブ記 4:11

「いつかは、役立たずの老いぼれライオンのように飢え…」という部分 >JLB に、ヘブライ語で「lajisch (layish)」という言葉が使われている。
他のヨブ記の翻訳では、ライオン lion、または虎 tiger と訳されているが、LXXでは「Μυρμηκολέων (mermecolion)」、つまりアリライオンと訳された。

わざと訳した?

Druceは他の可能性を示す。
金を掘る獣アリの話から「アリライオン」という生物が伝播し、時とともに想像力がアリとライオン、両方の性質を付加したのではないか。そして肉も草も食べられず、餓死する物語が生まれた。

他の注釈者がライオン、虎と訳したものを、LXXだけなぜ「アリライオン」と訳したか?

LXXはその餓死する物語と、もとの文の意味「獲物に飢え…」を意識し、意図的に「アリライオン」という言葉を使ったのかもしれない、と。


調べもの中の小話

ギリシャ語のmyrmex(アリ)という言葉を調べていて、「ミュルミドーン人」というのを知る。
もしかして、「アリライオン」=「ミュルミドーンのライオン」って意味じゃないか?と思ってたんだけど、ちがったようだ。



bestiary of the 15th century
based on the De Proprietatibus Rerum
of Bartholomaeus Anglicus



アリジゴク


アリジゴクは、アリにとってはライオンのようなもの。
しかし他の動物にかかればアリのように弱いので、「アリライオン」と呼ばれるそうだ。

Druceのテキストでは、中世の説明文がいろいろ読める。
「砂の中に隠れて、上を通るアリを殺す」という今ではふつうの説明もあれば、「隠れてアリの巣から食料を盗み、アリを飢えさせる」といわれたり、クモの別種という話もある。

図はアリと「アリライオン」 = アリジゴク。両者とも足が8本になっている。
アリライオンはクモを参考にしたのか、ふっくらした形。



その他

※英語に自信があるわけではないので、間違いもあるかもしれません。
 参考にする場合は、元の方をご覧ください。

メモ:
Physiologos
HISTORIAS DE HORMIGAS

20131117

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