2012-12-31

『ロリータ、ロリータ、ロリータ』若島正 ★5

ロリータ、ロリータ、ロリータ

ナボコフ『ロリータ』を再読するとき、ヒントになる一冊。
すごくいい本だった。


序. 霜の針、パンの屑

感動した。愛をもって読むことの大切さ。

ところがナボコフは、実に愛おしそうな手つきで、その霜の針をそっと拾い上げているのだ。これは言い換えれば、トルストイの筆先にきわめて細やかな神経が行きとどいていて、そのトルストイの筆先を、ナボコフが小説家としての直感で、さらにはすぐれた読者としての感性で、なぞってみせているということなのだろう。わたしはトルストイとナボコフのこうした交感に、嫉妬心まじりでうっとり見とれてしまうのである。
『ロリータ、ロリータ、ロリータ』

ラムジー夫人は、もし夫の上着にパン屑が付いていたら、それを取ってあげたいと思っている。そのささやかな願いとふるまいは、「愛してます」という言葉を口に出せないラムジー夫人にとっては、夫に対して示すことのできる、最大の愛情表現なのだ。それと同じように、わたしもまた、『ロリータ』というテクストの表面に付着している「霜の針」や「パン屑」を、ナボコフがそうしたように、そしてまたアーヴィング・ハウがそうしたように、愛おしい手つきで、できる限りそっと拾い上げたい。
同書(一部略)

1. ナボコフとプロブレム

チェス・プロブレム作家でもあったナボコフ。
補足2:初期短篇『クリスマス』 "セルフメイト(自殺詰)と似たところがある"のコメント


2. ロリータとの出会い

ハンバートとロリータが出会うシーンを引用(小説版・脚本版)。
まずは念入りに読み込んでもらって、あとでクイズを出題。


3. 見えないロリータ

クイズの解答。
引用箇所には、姿は見えないけれどロリータの痕跡があちこちにある。
宝探しみたいで面白い。

象徴読みにもおみやげ。皮肉めいたりんごとへび
補足で片方の靴下の運命を思い出した…本当にかわいそう。


4. 壁に掛けられた絵

(1) アルルの女(ドーデ/ビゼー)

南フランス豪農の息子フレデリは、アルルの闘牛場で見かけた女性に心を奪われてしまった。フレデリにはヴィヴェットという許嫁がいるが、彼女の献身的な愛もフレデリを正気に戻すことはできない。日に日に衰えていく息子を見て、フレデリの母はアルルの女との結婚を許そうとする。

それを伝え聞いたヴィヴェットがフレデリの幸せのためならと、身を退くことをフレデリの母に伝える。ヴィヴェットの真心を知ったフレデリは、アルルの女を忘れてヴィヴェットと結婚することを決意する。

2人の結婚式の夜、牧童頭のミティフィオが現れて、今夜アルルの女と駆け落ちすることを伝える。物陰からそれを聞いたフレデリは嫉妬に狂い、祝いの踊りファランドールがにぎやかに踊られる中、機織り小屋の階上から身をおどらせて自ら命を絶つ。


カルメン(メリメ/ビゼー) 『ロリータ』のサブテクスト

…作者に仮託される考古学者がスペインで出会ったある山賊の身の上話を紹介する。
彼はカルメンという情熱的なジプシー女に振り回されたあげく、悪事に身を染めてお尋ね者となり、ついには死刑となる。

原作ではスペインの民族構成の複雑さや、下層社会の抱える困難、荒涼とした風土などを背景に、ある孤独で勤実なバスク人の男が情欲のため犯罪に加担し、やがて破滅するというストーリーであり、基調としてはけっして華やかな物語ではない。

どちらも「魔性の女」が主題。


(2) ルネ・プリネ「クロイツェル・ソナタ」


フロイト『トーテムとタブー』にヒントを得て名付けられた香水"Tabu"の広告。
あからさまなシャーロットの誘惑に辟易。

トルストイ同名の小説


6. 二重露出

ナボコフと映画。

『静かなる男』 ティドルウィンクス
これ、なんなんだろうと疑問に思ってたんだ。
コインでコインの端っこをぐいっと押して、カップに向けて飛ばすゲームらしい。

動画1
ちびっこ用のゲームで女の子が遊んでいる。たぶんてんとう虫の模様を作ろうとしてる。
動画2
ちゃんとした?ティドルウィンクス。

アナクロニズム:時代劇に現代のものを登場させる・またはその逆のミスマッチを表現(Wikipedia
補足4:『エヴゲーニイ・オネーギン』


7. 「ロー」のトリック

補足:ステラ・ファンタジア Stella Fantasia 作品のあちこちに出てくる「星のテーマ」


8. Cの氾濫

◆小説のつくり
読者 ― 著者 > あとがき* > 編集 J.R.Jr > 語り手 H.H > 登場人物 H.H, Lolita...
(*) ウラジーミル・ナボコフは虚構の作者で、真の作者が別にいるかのような文。

C.Cのマーカー
チェスナット・コート → 〃・キャッスル → 〃・クレスト
虫みたいな自転車に乗った妖精のような少女 → お下げ髪をしている、不器量で太った女の子 →自転車のそばでは、妊娠が進んでいる若い女性が…

女の子の自転車 bicycle も、cを2つ使って気を引いてるのかなあ。

クィルティ Quilty 探し
モナ・ダールの手紙 Qu'il t'y, 静かに Quietly, 早く Quick
ヴァレリアに詰め寄る「でも、誰なんだ?」 Mais qui est-ce?
訳文:食い入る

コラム:エーコ「ノニータ」 >『ウンベルト・エーコの文体練習』


10. 「私の」部屋

自由間接話法

直接話法:登場人物の発言・独白をそのまま、「」で括って書く。
Before her body, he said (to himself),“I am a fool!”
彼女の死体の前で、彼は(自分に)言った、「おれはバカだ!」

間接話法:登場人物の発言・独白の内容を、that(que)節で括って書く。
Before her body, he said that he was a fool.
彼女の死体の前で、彼は自分はバカだと(自分に)言った。

自由間接話法:「」
Before her body; he was a fool!
彼女の死体の前で。おれはばかだ。

関連:
声を水に流す――朝吹真理子『流跡』の話法について(前編) 

ナボコフ『透明な対象』も読みたくなった。引用されてる部分だけでも面白い。笑ってしまった。


11. シャーロットとの出会い

◆ハンバートの色眼鏡を外して見ると、シャーロットはどんな人?
オホス・デ・ディオス Ojo de Diosから伺える家族への愛情

"どういうわけか for some reason" に注意
シャーロットの亡霊を見るハンバート:
まだ彼女が生きている時のとある体験とリンクして、亡霊が現れる。◎二重写しの景色


12. ロリータ、ロリータ、ロリータ

読者は『ロリータ』そのものを自分の力で読むよりも『ロリータ』について語られているそうした言葉を読み、それが大多数の意見であり正しいのだろうと納得しがちである。断定口調の言葉、借り物の言葉は、ほとんどの場合、まったくの誤りではなかったにせよ、一面の真実を言い表したものでしかないようにわたしには響く。
同書

私も哲学書などでよくやるのだけど、誰かがもう噛み砕いてくれたものを読む方が、楽だし時間がいらない。だけどそれはその人の味がついてしまったものだから、素材そのものではない。なので「わかりたいけどわかった気にはなるなよ」と自分に言い聞かせることが必要なのかもしれない。
同じように、肩書きがある人の意見とか一般的な評価に沿って物事を眺めるっていうのも、寄り添うものがあるだけ楽なんだろうなって思う。

◆書き出しを手放しで美しいと褒め称えていいものか?:

Lolita, light of my life, fire of my loins. My sin, my soul. Lo-lee-ta: the tip of the tongue taking a trip of three steps down the palate to tap, at three, on the teeth. Lo. Lee. Ta.

ロリータなる美的陶酔に耽るハンバート=それに酔う読者  同じ罪
「魅惑の狩人にて」:命=ペニスの換喩
だとして書き出しを読んでみると…(再読で意味変化)

音としては綺麗なのかもしれないけど、私は「Lo. Lee. Ta.」って熱っぽく舌先で味わってる男の様子がリアルに伝わってきてゾゾッとしてしまう。ねちっこい。
おまけに股間たぎらせてるんだよ。変態だよ。

ドロレス >悲しみの聖母 mater dolorosa

ハンバートに同調すれば彼は愛を詠い幻想に引き込む魅惑の語り手、醒めた目で見れば身勝手なレイパー、唾棄すべき男。 

◆ハンバートは迷妄から醒めたかどうか?

◆ハンバートの孤独感・喪失感

◆「二人の死んだ女性」とジンテーゼ
シャーロット、ロリータ、ドロシー

◆修正派
語り手ハンバートをどこまで信用するか



◎:二重写し
考えてみたら、なにかを想起させる時点で二重写しになってしまう。
でも全部マークすると◎だらけになってしまうので、考えてみたいポイントだけ。


関連書:
書きなおすナボコフ、読みなおすナボコフ

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